標準報酬月額の決定
健康保険法における標準報酬月額の決定方法について詳しく解説します。資格取得時の決定、定時決定、随時改定、育児休業等を終了した際の改定という主要な方法を中心に、具体的な計算方法や手続きについても触れていきます。
標準報酬月額の基本的な事項については以下の記事で紹介していますので、よろしければご覧ください。
資格取得時の決定
新規に被保険者の資格を取得した人の標準報酬月額は、次の方法によって決めます。
- (a)月給・週給など一定の期間によって定められている報酬については、その報酬の額を月額に換算した額
- (b)日給・時間給・出来高給・請負給などの報酬については、その事業所で前月に同じような業務に従事し、同じような報酬を受けた人の報酬の平均額
- (a)または(b)の方法で計算することができないときは、資格取得の月前1か月間に同じ地方で同じような業務に従事し、同じような報酬を受けた人の報酬の額
- (a)または(b)までの2つ以上に該当する報酬を受けている場合には、それぞれの方法により算定した額の合計額
定時決定
健康保険法における標準報酬月額の定時決定は、毎年1回、決まった時期に行われます。
- 対象者:対象となるのは、7月1日現在の被保険者です。
- 報酬の計算:被保険者が4月・5月・6月に受けた報酬の平均額を計算します。
- 標準報酬月額の決定:計算した平均額を標準報酬月額等級区分にあてはめて、その年の9月から翌年の8月までの標準報酬月額を決定します。
- 支払基礎日数:支払基礎日数が17日未満の月については、標準報酬月額の計算から除きます。
随時改定
健康保険法の標準報酬月額の随時改定は、被保険者の報酬が昇給や降給等の固定的賃金の変動に伴って大幅に変わったとき、定時決定を待たずに標準報酬月額を改定する制度です。随時改定が行われる条件は次の3つです。
- 昇給または降給等により固定的賃金に変動があった。
- 変動月からの3カ月間に支給された報酬(残業手当等の非固定的賃金を含む)の平均月額に該当する標準報酬月額とこれまでの標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた。
- 3カ月とも支払基礎日数が17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上である。
これらすべての要件を満たした場合、変更後の報酬を初めて受けた月から起算して4カ月目(例:4月に支払われる給与に変動があった場合、7月)の標準報酬月額から改定されます。
育児休業等を終了した際の改定
育児休業等を終了したときに、被保険者が事業主を経由して保険者に申出をした場合は、標準報酬月額の改定をすることができます。
育児休業等を終了し、職場に復帰した後、3歳未満の子を養育している場合には、被保険者の申し出により、育児休業終了日の翌日が属する月以後3ヶ月間に受けた報酬の平均額に基づき、4ヶ月目の標準報酬月額から改定することができます。
改定要件
- これまでの標準報酬月額と改定後の標準報酬月額との間に1等級以上の差が生じること。
- 育児休業終了日の翌日が属する月以後3カ月のうち、少なくとも1カ月における支払基礎日数が17日以上であること(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)。
産前産後休業を終了した際の改定
産前産後休業を終了し、職場に復帰した後、被保険者の申し出により、産前産後休業終了日の翌日が属する月以後3ヶ月間に受けた報酬の平均額に基づき、4ヶ月目の標準報酬月額から改定することができます。
改定要件
- これまでの標準報酬月額と改定後の標準報酬月額との間に1等級以上の差が生じること。
- 産前産後休業終了日の翌日が属する月以後3カ月のうち、少なくとも1カ月における支払基礎日数が17日以上であること(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)。
条文で確認
第四十一条(定時決定)
保険者等は、被保険者が毎年七月一日現に使用される事業所において同日前三月間(その事業所で継続して使用された期間に限るものとし、かつ、報酬支払の基礎となった日数が十七日(厚生労働省令で定める者にあっては、十一日。第四十三条第一項、第四十三条の二第一項及び第四十三条の三第一項において同じ。)未満である月があるときは、その月を除く。)に受けた報酬の総額をその期間の月数で除して得た額を報酬月額として、標準報酬月額を決定する。
2 前項の規定によって決定された標準報酬月額は、その年の九月から翌年の八月までの各月の標準報酬月額とする。
3 第一項の規定は、六月一日から七月一日までの間に被保険者の資格を取得した者及び第四十三条、第四十三条の二又は第四十三条の三の規定により七月から九月までのいずれかの月から標準報酬月額を改定され、又は改定されるべき被保険者については、その年に限り適用しない。
第四十二条(被保険者の資格を取得した際の決定)
保険者等は、被保険者の資格を取得した者があるときは、次に掲げる額を報酬月額として、標準報酬月額を決定する。
一 月、週その他一定期間によって報酬が定められる場合には、被保険者の資格を取得した日の現在の報酬の額をその期間の総日数で除して得た額の三十倍に相当する額
二 日、時間、出来高又は請負によって報酬が定められる場合には、被保険者の資格を取得した月前一月間に当該事業所で、同様の業務に従事し、かつ、同様の報酬を受ける者が受けた報酬の額を平均した額
三 前二号の規定によって算定することが困難であるものについては、被保険者の資格を取得した月前一月間に、その地方で、同様の業務に従事し、かつ、同様の報酬を受ける者が受けた報酬の額
四 前三号のうち二以上に該当する報酬を受ける場合には、それぞれについて、前三号の規定によって算定した額の合算額
2 前項の規定によって決定された標準報酬月額は、被保険者の資格を取得した月からその年の八月(六月一日から十二月三十一日までの間に被保険者の資格を取得した者については、翌年の八月)までの各月の標準報酬月額とする。
第四十三条(改定)
保険者等は、被保険者が現に使用される事業所において継続した三月間(各月とも、報酬支払の基礎となった日数が、十七日以上でなければならない。)に受けた報酬の総額を三で除して得た額が、その者の標準報酬月額の基礎となった報酬月額に比べて、著しく高低を生じた場合において、必要があると認めるときは、その額を報酬月額として、その著しく高低を生じた月の翌月から、標準報酬月額を改定することができる。
2 前項の規定によって改定された標準報酬月額は、その年の八月(七月から十二月までのいずれかの月から改定されたものについては、翌年の八月)までの各月の標準報酬月額とする。
第四十三条の二(育児休業等を終了した際の改定)
保険者等は、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成三年法律第七十六号)第二条第一号に規定する育児休業、同法第二十三条第二項の育児休業に関する制度に準ずる措置若しくは同法第二十四条第一項(第二号に係る部分に限る。)の規定により同項第二号に規定する育児休業に関する制度に準じて講ずる措置による休業又は政令で定める法令に基づく育児休業(以下「育児休業等」という。)を終了した被保険者が、当該育児休業等を終了した日(以下この条において「育児休業等終了日」という。)において当該育児休業等に係る三歳に満たない子を養育する場合において、その使用される事業所の事業主を経由して厚生労働省令で定めるところにより保険者等に申出をしたときは、第四十一条の規定にかかわらず、育児休業等終了日の翌日が属する月以後三月間(育児休業等終了日の翌日において使用される事業所で継続して使用された期間に限るものとし、かつ、報酬支払の基礎となった日数が十七日未満である月があるときは、その月を除く。)に受けた報酬の総額をその期間の月数で除して得た額を報酬月額として、標準報酬月額を改定する。ただし、育児休業等終了日の翌日に次条第一項に規定する産前産後休業を開始している被保険者は、この限りでない。
2 前項の規定によって改定された標準報酬月額は、育児休業等終了日の翌日から起算して二月を経過した日の属する月の翌月からその年の八月(当該翌月が七月から十二月までのいずれかの月である場合は、翌年の八月)までの各月の標準報酬月額とする。
第四十三条の三(産前産後休業を終了した際の改定)
保険者等は、産前産後休業(出産の日(出産の日が出産の予定日後であるときは、出産の予定日)以前四十二日(多胎妊娠の場合においては、九十八日)から出産の日後五十六日までの間において労務に服さないこと(妊娠又は出産に関する事由を理由として労務に服さない場合に限る。)をいう。以下同じ。)を終了した被保険者が、当該産前産後休業を終了した日(以下この条において「産前産後休業終了日」という。)において当該産前産後休業に係る子を養育する場合において、その使用される事業所の事業主を経由して厚生労働省令で定めるところにより保険者等に申出をしたときは、第四十一条の規定にかかわらず、産前産後休業終了日の翌日が属する月以後三月間(産前産後休業終了日の翌日において使用される事業所で継続して使用された期間に限るものとし、かつ、報酬支払の基礎となった日数が十七日未満である月があるときは、その月を除く。)に受けた報酬の総額をその期間の月数で除して得た額を報酬月額として、標準報酬月額を改定する。ただし、産前産後休業終了日の翌日に育児休業等を開始している被保険者は、この限りでない。
2 前項の規定によって改定された標準報酬月額は、産前産後休業終了日の翌日から起算して二月を経過した日の属する月の翌月からその年の八月(当該翌月が七月から十二月までのいずれかの月である場合は、翌年の八月)までの各月の標準報酬月額とする。
過去問にチャレンジ
令和元年度
被保険者の資格を取得した際に決定された標準報酬月額は、その年の6月1日から12月31日までの間に被保険者の資格を取得した者については、翌年の9月までの各月の標準報酬月額とする。
答え「×」
被保険者の資格を取得した月からその年の8月(6月1日から12月31日までの間に被保険者の資格を取得した者については、翌年の8月)までの各月の標準報酬月額とします。
平成26年度
4月に被保険者資格を取得した者の定時決定について、4月、5月、6月に受けた報酬の支払基礎となった日数がそれぞれ5日、16日、18日であった場合、5月と6月に受けた報酬の平均額をもってその年の9月から翌年の8月までの標準報酬月額を決定する。
答え「×」
被保険者が毎年7月1日現に使用される事業所において同日前3月間(その事業所で継続して使用された期間に限るものとし、かつ、報酬支払の基礎となった日数が17日未満である月があるときは、その月を除く。)に受けた報酬の総額をその期間の月数で除して得た額を報酬月額として、標準報酬月額を決定します。
平成30年度
標準報酬月額が1,330,000円(標準報酬月額等級第49級)である被保険者が、現に使用されている事業所において、固定的賃金の変動により変動月以降継続した3か月間(各月とも、報酬支払の基礎となった日数が、17日以上であるものとする。)に受けた報酬の総額を3で除して得た額が1,415,000円となった場合、随時改定の要件に該当する。
答え「〇」
随時改定の要件は2等級以上の変動があることが原則ですが、次の場合は1等級の変動で改定が行われる場合があります。
2 随時改定
(1) 標準報酬月額の随時改定は、次の各項のいずれかに該当する場合に行なうこと。
ア 昇給又は降給によって健康保険法第43条第1項又は厚生年金保険法第23条第1項の規定により算定した額(以下「算定月額」という。)による等級と現在の等級との間に2等級以上の差を生じた場合
イ 健康保険第49級又は厚生年金保険第31級の標準報酬月額にある者の報酬月額が昇給したことにより、その算定月額が健康保険1,415,000円以上又は厚生年金保険665,000円以上となった場合
ウ 第一級の標準報酬月額にある者の報酬月額(健康保険にあっては報酬月額が53,000円未満、厚生年金保険にあっては報酬月額が83,000円未満である場合に限る。)が昇給したことにより、その算定月額が第二級の標準報酬月額に該当することとなった場合
エ 健康保険第50級又は厚生年金保険第32級の標準報酬月額にある者の報酬月額(健康保険にあっては報酬月額が1,415,000円以上、厚生年金保険にあっては報酬月額が665,000円以上である場合に限る。)が降給したことにより、その算定月額が健康保険第49級又は厚生年金保険第31級以下の標準報酬月額に該当することとなった場合
オ 第2級の標準報酬月額にある者の報酬月額が降給したことにより、その算定月額が健康保険にあっては53,000円未満、厚生年金保険にあっては83,000円未満となった場合
昭和36年1月26日保発第四号(健康保険法及び厚生年金保険法における標準報酬月額の定時決定及び随時改定の取扱いについて)
令和3年度
一時帰休に伴い、就労していたならば受けられるであろう報酬よりも低額な休業手当が支払われることとなり、その状態が継続して3か月を超える場合には、固定的賃金の変動とみなされ、標準報酬月額の随時改定の対象となる。
答え「〇」
2 標準報酬の取扱い
(1) 一時帰休の場合
一時帰休に伴い、就労していたならば受けられるであろう報酬よりも低額な休業手当等が支払われることとなつた場合の標準報酬の決定及び改定は、次により取扱うこと。
ア 定時決定
標準報酬の定時決定の対象月に一時帰休に伴う休業手当等が支払われた場合においては、その休業手当等をもつて報酬月額を算定し、標準報酬を決定すること。ただし、標準報酬の決定の際、既に一時帰休の状況が解消している場合は、当該定時決定を行う年の十月以後において受けるべき報酬をもつて報酬月額を算定し、標準報酬を決定すること。
イ 随時改定
一時帰休に伴い、就労していたならば受けられるであろう報酬よりも低額な休業手当等が支払われることとなつた場合は、これを固定的賃金の変動とみなし、随時改定の対象とすること。ただし、当該報酬のうち固定的賃金が減額され支給される場合で、かつ、その状態が継続して三か月を超える場合に限るものであること。
なお、休業手当等をもつて標準報酬の決定又は改定を行つた後に一時帰休の状況が解消したときも、随時改定の対象とすること。
昭和50年3月29日保険発第25号・庁保険発第8号(一時帰休等の措置がとられた場合における健康保険及び厚生年金保険の被保険者資格及び標準報酬の取扱いについて)
平成27年度
【被保険者が多胎妊娠し(出産予定日は6月12日)、3月7日から産前休業に入り、6月15日に正常分娩で双子を出産した。産後休業を終了した後は引き続き育児休業を取得し、子が1歳に達した日をもって育児休業を終了し、その翌日から職場復帰した。産前産後休業期間及び育児休業期間に基づく報酬及び賞与は一切支払われておらず、職場復帰後の労働条件等は次のとおりであった。なお、職場復帰後の3か月間は所定労働日における欠勤はなく、育児休業を終了した日の翌日に新たな産前休業に入っていないものとする。この被保険者に関して。
【職場復帰後の労働条件等】
始業時刻 10:00
終業時刻 17:00
休憩時間 1時間
所定の休日 毎週土曜日及び日曜日
給与の支払形態 日額12,000円の日給制
給与の締切日 毎月20日
給与の支払日 当月末日】
職場復帰後に育児休業等終了時改定に該当した場合は、改定後の標準報酬月額がその翌年の8月までの各月の標準報酬月額となる。なお、標準報酬月額の随時改定には該当しないものとする。
答え「〇」
育児休業等終了時改定は、育児休業等終了日の翌日から起算して2月を経過した日の属する月の翌月からその年の8月(当該翌月が7月から12月までのいずれかの月である場合は、翌年の8月)までの各月の標準報酬月額とされます。
設問の方の場合は6月に育児休業を終了しているので、2月を経過した日の属する月の翌月は9月となります。当該翌月が7月から12月までのいずれかの月である場合は、翌年の8月までとなるので、設問の通りとなります。
なお、標準報酬月額の算定は、育児休業等終了日の翌日が属する月以後3月間(育児休業等終了日の翌日において使用される事業所で継続して使用された期間に限るものとし、かつ、報酬支払の基礎となった日数が17日未満である月があるときは、その月を除く。)に受けた報酬の総額をその期間の月数で除して得た額を報酬月額とし
終わりに
いかがでしたでしょうか。
標準報酬月額の決定については、厚生年金保険法とほぼ同様ですので、どちらで出題されても慌てないようにしましょう。
今後も、このブログでは、社労士試験合格を目指す方に役立つ情報などを発信します。
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