事業者の講じるべき措置
事業者の講じるべき措置については、以下のような事項が挙げられます。
管理者や責任者の選任
事業者は安全衛生管理や推進の中心となる人を選定しなければなりません。事業規模や業種に応じて「安全管理者」「衛生管理者」「安全衛生推進者」「産業医」を配置します。
安全衛生委員会の設置
常時使用する労働者を50人以上有する事業場に「安全衛生委員会」を設置することが義務付けられています。
労働災害(危険・有害物・健康被害)の防止措置
事業者は設備や作業などにより労働者が危険に晒されたり、怪我や病気をしたりすることがないよう、事前に防止措置を講じるよう定められています。
安全衛生教育の実施
業種・職種・雇用形態にかかわらず、事業者は労働者を新たに雇い、その作業内容を変更したときに遅滞なく、安全衛生教育を実施することが義務付けられています。
リスクアセスメントの実施
平成18年の法改正により、労働安全衛生法第28条に「危険又は有害性の調査及び調査の結果に基づく講ずべき措置」が事業者の努力義務として導入されました。
労働者の健康保持:健康診断・ストレスチェックの実施
労働安全衛生法第66条では、労働者の安全と健康確保に向けた対策として、事業者に健康診断・ストレスチェックの実施を義務付けています(ストレスチェックは労働者50人未満の事業場においては努力義務)。
快適な職場環境整備
労働安全衛生法第7章では、快適な職場環境の整備が努力義務として明記されています。
元方事業者の講じるべき措置
元方事業者の講じるべき措置については、以下のような事項が挙げられます。
総合的な安全衛生管理のための体制の確立及び計画的な実施
元方事業者は、総合的な安全衛生管理の体制を確立するため、元方事業者の事業場全体の労働者の数(元方事業者の労働者及び関係請負人の労働者を合わせた労働者数)が常時50人以上である場合は、作業間の連絡調整等を統括管理する者を選任し、当該事項を統括管理させること。
協議組織の設置及び運営、関係請負人の把握
元方事業者は、関係請負人と協力して協議組織を設置し、運営すること。また、関係請負人を把握し、その安全衛生管理に対する指導を行うこと。
作業間の連絡及び調整、安全教育の指導援助
元方事業者は、作業間の連絡調整等を行う責任者を選任し、その指導・援助を行うこと。
作業場所の巡視、労働者への安全指導指示等
元方事業者は、作業場所を定期的に巡視し、必要に応じて労働者に対して安全指導や指示を行うこと。
製造業の元方事業者が講じるべき措置
製造業の元方事業者の講じるべき措置については、以下のような事項が挙げられます。
作業間の連絡・調整
製造業の元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所で行われることによって生ずる労働災害の防止のため、随時、元方事業者と関係請負人、また関係請負人相互間の連絡・調整を行うこと。
合図・標識・警報の統一と周知
クレーン等の運転等についての合図の統一、事故現場等を表示する標識の統一、有機溶剤等の容器の集積箇所の統一、エックス線装置に電力が供給されている場合における警報の統一と、これらについての関係請負人への周知。
関係法令遵守の指導と違反是正
元方事業者は、関係法令遵守の指導と違反是正を行うことが規定されています。
機械等貸与者の講じるべき措置
機械等貸与者の講じるべき措置については、以下のような事項が挙げられます。
機械等の貸与
機械等貸与者は、政令で定めるものを他の事業者に貸与する。その際、当該機械等を他の事業者に貸与するときは、次の措置を講じなければならない。
使用検査、個別検定、型式検定等
安全確保のために、個々の産業用機械の特性や危険性等に応じ、使用検査、個別検定、型式検定等を受けることが義務付けられています。
建物貸与者の講じるべき措置
建物貸与者の講じるべき措置については、以下のような事項が挙げられます。
建築物の貸与
建築物で、政令で定めるものを他の事業者に貸与する者(以下「建築物貸与者」という)は、当該建築物の貸与を受けた事業者の事業に係る当該建築物による労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならない。
共用の避難用出入口等
建築物貸与者は、当該建築物の避難用の出入口若しくは通路又はすべり台、避難用はしご等の避難用の器具で、当該建築物の貸与を受けた二以上の事業者が共用するものについては、避難用である旨の表示をし、かつ、容易に利用することができるように保持しておかなければならない。
共用の警報設備等
建築物貸与者は、当該建築物の貸与を受けた事業者が危険物その他爆発性若しくは発火性の物の製造若しくは取扱いをするとき、又は当該建築物の貸与を受けた事業者の労働者で、当該建築物の内部で就業するものの数が50人以上であるときは、非常の場合に関係労働者にすみやかに知らせるための自動警報設備、非常ベル等の警報用の設備又は携帯用拡声器、手動式サイレン等の警報用の器具を備え、かつ、有効に作動するように保持しておかなければならない。
過去問にチャレンジ
平成27年度
事業者は、機械の原動機、回転軸、歯車、プーリー、ベルト等の労働者に危険を及ぼすおそれのある部分には、覆い、囲い、スリーブ、踏切橋等を設けなければならない。
答え「〇」
設問のとおりです。
事業者は、機械の原動機、回転軸、歯車、プーリー、ベルト等の労働者に危険を及ぼすおそれのある部分には、覆い、囲い、スリーブ、踏切橋等を設けなければならない。
2 事業者は、回転軸、歯車、プーリー、フライホイール等に附属する止め具については、埋頭型のものを使用し、又は覆いを設けなければならない。
3 事業者は、ベルトの継目には、突出した止め具を使用してはならない。
4 事業者は、第一項の踏切橋には、高さが九十センチメートル以上の手すりを設けなければならない。
5 労働者は、踏切橋の設備があるときは、踏切橋を使用しなければならない。
労働安全衛生法施行規則 第百一条(原動機、回転軸等による危険の防止)
平成30年度
派遣就業のために派遣され就業している労働者に関する機械、器具その他の設備による危険や原材料、ガス、蒸気、粉じん等による健康障害を防止するための措置は、派遣先事業者が講じなければならず、当該派遣中の労働者は当該派遣元の事業者に使用されないものとみなされる。
答え「〇」
派遣労働者の危険または健康障害を防止するための措置は派遣先事業者の責務となります。
第1 派遣労働者の労働条件及び安全衛生の確保に係る基本的な考え方
派遣労働者の労働条件及び安全衛生の確保に当たっては、派遣元事業主及び派遣先事業主が、自らの責任を十分に理解しそれぞれの義務を果たすとともに、労働者派遣契約の相手方の責任についても互いに理解し、その上で適切な連携を図ることが重要となるものである。特に、派遣労働者の安全衛生を確保するためには、派遣先事業主が派遣労働者の危険又は健康障害を防止するための措置を現場の状況に即し適切に講ずることが重要である。
平成21年3月31日基発第0331010号(派遣労働者に係る労働条件及び安全衛生の確保について)
令和3年度
労働安全衛生法では、事業者は、作業方法又は作業手順を新規に採用し、又は変更したときは、1か月以内に建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等による、又は作業行動その他業務に起因する危険性又は有害性等を調査し、その結果に基づいて、労働安全衛生法又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならないとされている。
答え「×」
調査は1か月以内ではなく、「作業方法又は作業手順を新規に採用し、又は変更したとき」に行うものとされています。
法第二十八条の二第一項の危険性又は有害性等の調査は、次に掲げる時期に行うものとする。
一 建設物を設置し、移転し、変更し、又は解体するとき。
二 設備、原材料等を新規に採用し、又は変更するとき。
三 作業方法又は作業手順を新規に採用し、又は変更するとき。
四 前三号に掲げるもののほか、建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等による、又は作業行動その他業務に起因する危険性又は有害性等について変化が生じ、又は生ずるおそれがあるとき。
2 法第二十八条の二第一項ただし書の厚生労働省令で定める業種は、令第二条第一号に掲げる業種及び同条第二号に掲げる業種(製造業を除く。)とする。
労働安全衛生規則 第24条の11(危険性又は有害性等の調査)
令和元年度
甲社:本件建設工事の発注者
乙社:本件建設工事を甲社から請け負って当該建設工事現場で仕事をしている事業者。常時10人の労働者が現場作業に従事している。
丙社:乙社から工事の一部を請け負って当該建設工事現場で仕事をしているいわゆる一次下請事業者。常時30人の労働者が現場作業に従事している。
丁社:丙社から工事の一部を請け負って当該建設工事現場で仕事をしているいわゆる二次下請事業者。常時20人の労働者が現場作業に従事している
丁社の労働者が、当該仕事に関し、労働安全衛生法に違反していると認めるときに、その是正のために元方事業者として必要な指示を行う義務は、丙社に課せられている。
答え「×」
設問の場合は、常時60人の労働者がいる建設工事現場ですので、各社には次のような役割が生じます。
- 甲社:発注者
- 乙社:特定元方事業者としてとして統括安全衛生責任者を選任し、その者に元方安全衛生管理者の指揮をさせなければなりません。
- 丙社、丁社:関係請負人ごとにそれぞれ安全衛生責任者を選任しなければなりません。
建設現場における安全衛生体制については次の記事でまとめていますので、よろしければご覧ください。
元方事業者は、関係請負人及び関係請負人の労働者が、当該仕事に関し、この法律又はこれに基づく命令の規定に違反しないよう必要な指導を行なわなければならない。
2 元方事業者は、関係請負人又は関係請負人の労働者が、当該仕事に関し、この法律又はこれに基づく命令の規定に違反していると認めるときは、是正のため必要な指示を行なわなければならない。
3 前項の指示を受けた関係請負人又はその労働者は、当該指示に従わなければならない。
労働安全衛生法 第29条(元方事業者の講ずべき措置等)
終わりに
いかがでしたでしょうか。
範囲は広いですが、難しい問題はあまりないので、基本をしっかり覚えていきましょう。
今後も、このブログでは、社労士試験合格を目指す方に役立つ情報などを発信します。
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