【見分けられるように】労働基準法 労働条件の明示

労働条件の明示

労働条件の明示とは、雇用主が労働者に対して、その労働条件を明確に伝えることを指します。これには、賃金、労働時間、休日、休暇、解雇に関する事項などが含まれます。

労働条件の明示は、口頭だけでなく文書で行うことが求められます。

これは、後でトラブルが起きた場合に証拠となるためです。文書は電子形式でも構いませんが、必ず労働者がいつでも参照できるように保存しておく必要があります。

絶対的明示事項

労働条件の絶対的明示事項とは、労働者に対して必ず書面で明示しなければならない事項です。

具体的には、以下の項目です。

  1. 労働契約の期間:労働契約が有期か無期かを明示する必要があります。
  2. 労働契約更新の基準:有期労働契約を更新する場合の基準を明示する必要があります。
  3. 就業場所及び従事する業務の内容:労働者がどこで何の業務を行うかを明示する必要があります。
  4. 労働時間、残業、休憩時間、休日、休暇に関する事項:始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働(残業)の有無、休憩時間、休日、休暇について明示する必要があります。
  5. 賃金の支給額、計算方法、締め日、支払日、支払い方法に関する事項:賃金の支給額や計算方法、賃金の締め切り日や支払日、支払い方法について明示する必要があります。
  6. 退職、及び解雇の事由と手続き方法:退職や解雇の理由と手続き方法について明示する必要があります。

相対的明示事項

相対的明示事項は会社が定めがある場合のみ明示が必要であり、書面の交付を必要としません。

  1. 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、手当の決定、計算及び支払いの方法、支払いの時期
  2. 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与等、最低賃金額
  3. 労働者に負担させるべき食費、作業用品等に関する事項
  4. 安全及び衛生に関する事項
  5. 職業訓練に関する事項
  6. 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
  7. 表彰及び制裁に関する事項
  8. 休職に関する事項

また、2024年4月から以下の事項の明示が新たに義務付けられることになります。

  • 就業場所の変更の範囲:これまでは雇い入れ直後の就業場所についてのみ明示が義務付けられていましたが、配置転換等で想定される就業場所の変更範囲も契約書に記載することが求められるようになりました。
  • 従事すべき業務の変更の範囲:これまでは雇い入れ直後の業務内容についてのみ明示が義務付けられていましたが、配置転換等で想定される業務内容の変更範囲も契約書に記載することが求められるようになりました。
  • 有期労働契約を更新する場合の基準:これまで有期労働契約など、期間の定めのある労働契約の締結や更新の際には、「契約期間」「更新の有無」「更新の基準」について明示が必要でした。2024年4月からは、これらに加えて「更新上限の有無」についても明示が必要となります。

条文で確認

第十五条(労働条件の明示)

使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。

 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。

規則第五条

使用者が法第十五条第一項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。ただし、第一号の二に掲げる事項については期間の定めのある労働契約であつて当該労働契約の期間の満了後に当該労働契約を更新する場合があるものの締結の場合に限り、第四号の二から第十一号までに掲げる事項については使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない。

 労働契約の期間に関する事項

一の二 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項

一の三 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項

 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項

 賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項

 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

四の二 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項

 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第八条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項

 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項

 安全及び衛生に関する事項

 職業訓練に関する事項

 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項

 表彰及び制裁に関する事項

十一 休職に関する事項

 使用者は、法第十五条第一項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件を事実と異なるものとしてはならない。

 法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める事項は、第一項第一号から第四号までに掲げる事項(昇給に関する事項を除く。)とする。

 法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。ただし、当該労働者が同項に規定する事項が明らかとなる次のいずれかの方法によることを希望した場合には、当該方法とすることができる。

 ファクシミリを利用してする送信の方法

 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第一号に規定する電気通信をいう。以下この号において「電子メール等」という。)の送信の方法(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。)

過去問にチャレンジ

平成21年度

労働契約の期間に関する事項、就業の場所及び従事すべき業務に関する事項は、使用者が、労働契約の締結に際し、労働者に対して書面の交付によって明示しなければならない事項に含まれている。

答え「〇」

規則第五条一の三にある通りです。

なお、現在は法改正により書面に限らず、労働者が希望する場合、ファクシミリ、電子メール等での明示も可能になっています。

平成24年度

使用者は、「表彰に関する事項」については、それに関する定めをする場合であっても、労働契約の締結に際し、労働者に対して、労働基準法第15条の規定に基づく明示をする必要はない。

答え「×」

「表彰及び制裁に関する事項」は相対的明示事項なので、定めをする場合は明示する必要があります。

平成24年度

労働基準法第15条により、使用者が労働契約の締結に際し書面で行うこととされている労働条件の明示については、当該労働条件を記載した就業規則を交付することではその義務を果たすことはできない。

答え「×」

就業規則を交付することではその義務を果たすことができる。

第二 労働条件の明示(法第一五条第一項関係)

一 趣旨

労働移動の増大、就業形態の多様化等に伴い、労働条件が不明確なことによる紛争が増大するおそれがあることから、このような紛争を未然に防止するため、書面の交付により明示すべき労働条件を追加したものであること。

四 書面明示の方法

上記三の書面の様式は自由であること。

なお、上記に掲げた事項については、当該労働者に適用する部分を明確にして就業規則を労働契約の締結の際に交付することとしても差し支えないこと。

平成11年1月29日基発第45号(労働基準法の一部を改正する法律の施行について)

平成29年

派遣労働者に対する労働条件の明示は、労働者派遣法における労働基準法の適用に関する特例により派遣先の事業のみを派遣中の労働者を使用する事業とみなして適用することとされている労働時間、休憩、休日等については、派遣先の使用者がその義務を負う。

答え「×」

設問の労働条件の明示の義務は「派遣元の使用者」が負う。

(2) 労働条件の明示(労基法第15条)

派遣元の使用者は、派遣労働者と労働契約を締結するに際し、賃金、労働時間、労働契約の期間に関する事項(労働契約の期間の定めの有無並びに定めがある場合にはその期間及び更新する場合の基準)を始めとした労働条件の明示を確実に行うこと。

なお、この労働条件の明示は、労働者派遣法第34条第1項に定める就業条件の明示と併せ行って差し支えないが、それぞれの明示すべき内容は異なる部分もあることから、就業条件の明示のみをもって労働条件の明示に代えることはできないこと。

平成21年3月31日基発第0331010号(派遣労働者に係る労働条件及び安全衛生の確保について)

平成28年度

労働契約の締結に際し明示された労働条件が事実と相違しているため、労働者が労働契約を解除した場合、当該解除により労働契約の効力は遡及的に消滅し、契約が締結されなかったのと同一の法律効果が生じる。

答え「×」

労働契約の効力は解除することによって将来に向かって消滅する。

民法上の「解除」と公法上の「解除」

民法上の「解除」

契約当事者の一方の意思表示によって、契約の効力を遡及的に消滅させ、契約が初めから存在しなかったと同じような法律効果を生じさせること

公法上の「解除」

行政処分等に基づいて築かれた継続的な法律関係の効力を、将来に向かって消滅させる(民法で言う「解約」)こと

終わりに

いかがでしたでしょうか。

労働条件の明示も絶対的明示事項と相対的明示事項の判別のほか、細かい規定も過去問では出題されています。

事例的な問題も多いので、過去問を解きながら一つ一つ覚えていきましょう。

今後も、このブログでは、社労士試験合格を目指す方に役立つ情報などを発信します。

コメント

タイトルとURLをコピーしました