はじめに
前回に引き続き、東京駅近くで発生した建設現場の事故について、今回は災害補償の点からまとめます。
災害補償には、どのような種類があり、どのような手続きが必要になるのでしょうか。
条文と過去問を見ながら抑えていきましょう
保険給付の種類
補償の対象となる災害
以前の記事でも紹介しましたが、補償の対象となる災害は3つに分かれています。
業務災害 | 業務上の負傷、疾病、障害又は死亡 |
複数業務要因災害 | 2以上の事業の業務を要因とする負傷、疾病、障害又は死亡 |
通勤災害 | 通勤による負傷、疾病、障害又は死亡 |
詳しくは下の記事をご覧ください。
保険給付の種類
保険給付は、保険事故の内容によって分かれています。
保険事故 | 業務災害 | 複数業務要因災害 | 通勤災害 |
---|---|---|---|
傷病 (負傷・疾病) | 療養補償給付 休業補償給付 傷病補償給付 | 複数事業労働者療養給付 複数事業労働者休業給付 複数事業労働者傷病給付 | 療養給付 休業給付 傷病年金 |
障害 | 障害補償給付 | 複数事業労働者障害給付 | 障害給付 |
介護 | 介護補償給付 | 複数事業労働者介護給付 | 介護給付 |
死亡 | 遺族補償給付 葬祭料 | 複数事業労働者遺族給付 複数事業労働者葬祭給付 | 遺族給付 葬祭給付 |
災害の種類によって名称が異なりますが、給付の内容はほとんど同じです。
なので、テキストなどでは「〇〇(補償)等給付」とまとめて表記しているものもあります。
二次健康診断等給付
これに加えて、業務上の事由による脳血管や心臓疾患の発生のおそれがある場合に行われる「二次健康診断等給付」があります。
労働者災害補償保険法の目的に掲げられている「労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に関して保険給付を行う」の「等」の部分がこの「二次健康診断等給付」にあたるので、選択式問題で問われても判別できるようにしておきましょう。
健康保険法の目的条文との違いもあわせてチェックしておきましょう。
労働者災害補償 第二条の二
労働者災害補償保険は、第一条の目的を達成するため、業務上の事由、複数事業労働者の二以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に関して保険給付を行うほか、社会復帰促進等事業を行うことができる。
健康保険法 第一条
この法律は、労働者又はその被扶養者の業務災害(労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)第七条第一項第一号に規定する業務災害をいう。)以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。
傷病にかかる保険給付
保険給付全体では範囲が膨大です。
傷病にかかる保険給付は、「療養補償給付」、「休業補償給付」、「傷病補償給付」の3つに分けられます。
今回の記事では傷病にかかる保険給付のうち、特に療養補償給付を取り上げます。
労働者災害補償保険法 第十二条の八(業務災害に関する保険給付)
第七条第一項第一号の業務災害に関する保険給付は、次に掲げる保険給付とする。
一 療養補償給付
二 休業補償給付
三 障害補償給付
四 遺族補償給付
五 葬祭料
六 傷病補償年金
七 介護補償給付
② 前項の保険給付(傷病補償年金及び介護補償給付を除く。)は、労働基準法第七十五条から第七十七条まで、第七十九条及び第八十条に規定する災害補償の事由又は船員法(昭和二十二年法律第百号)第八十九条第一項、第九十一条第一項、第九十二条本文、第九十三条及び第九十四条に規定する災害補償の事由(同法第九十一条第一項にあつては、労働基準法第七十六条第一項に規定する災害補償の事由に相当する部分に限る。)が生じた場合に、補償を受けるべき労働者若しくは遺族又は葬祭を行う者に対し、その請求に基づいて行う。
③ 傷病補償年金は、業務上負傷し、又は疾病にかかつた労働者が、当該負傷又は疾病に係る療養の開始後一年六箇月を経過した日において次の各号のいずれにも該当するとき、又は同日後次の各号のいずれにも該当することとなつたときに、その状態が継続している間、当該労働者に対して支給する。
一 当該負傷又は疾病が治つていないこと。
二 当該負傷又は疾病による障害の程度が厚生労働省令で定める傷病等級に該当すること。
労働者災害補償保険法 第十二条の八(業務災害に関する保険給付)
過去問にチャレンジ
平成21年度
療養の給付の範囲は、①診察、②薬剤又は治療材料の支給、③処置、手術その他の治療、④居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護、⑤病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護、⑥移送のほか、政府が療養上相当と認めるものに限られる。
答え「×」
「⑥移送のほか、…」、ではなく「⑥移送のうち、…」が正しい。
これは療養の費用の支給の規定と混在しているものです。
政府は、第一項の療養の給付をすることが困難な場合その他厚生労働省令で定める場合には、療養の給付に代えて療養の費用を支給することができる。
このうち、その他厚生労働省令で定める場合とは、労働者に相当の理由がある場合とされています。
令和元年度
被災労働者が、災害現場から医師の治療を受けるために医療機関に搬送される途中で死亡したときは、搬送費用が療養補償給付の対象とはなり得ない。
答え「×」
設問の場合、対象となり得る。
昭和30年7月13日基収841号からの出題です。
ちなみに令和元年度からの出題としていますが、平成28年度にも同様の選択肢が出されています。今後も要注意です。
昭和30年7月13日基収841号
被災労働者が死亡に至る迄に要した搬送の費用は、療養のためのものと認められるので、移送費として支給すべきである。
移送費に関しては、健康保険法との違いにも注意です。
健康保険法の場合、移送に関する費用は「療養の給付」による現物給付ではなく、移送費(家族移送費)として現金給付(療養の給付に含まれていない。)されます。
このあたりの違いも試験で狙われますので、要注意ですね。
平成27年度
療養補償給付たる療養の給付を受けようとする者は、厚生労働省令に規定された事項を記載した請求書を、直接、所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。
答え「×」
療養の給付は指定病院等を経由して所轄労働基準監督署長に提出することとされています。
一方で、療養の費用の支給は、設問のとおり、直接、所轄労働基準監督署長に提出しなければならないとされています。
労働者災害補償保険法施行規則
第十二条(療養補償給付たる療養の給付の請求)
療養補償給付たる療養の給付を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した請求書を、当該療養の給付を受けようとする第十一条第一項の病院若しくは診療所、薬局又は訪問看護事業者(以下「指定病院等」という。)を経由して所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。
第十二条の二(療養補償給付たる療養の費用の請求)
療養補償給付たる療養の費用の支給を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した請求書を、所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。
終わりに
いかがでしたでしょうか。
療養補償給付は労働者の安全を守り、万が一の事故に備える仕組みの重要な柱です。
健康保険法の療養の給付との違いに気を付けながら学習をしましょう。
今後も、このブログでは、社労士試験合格を目指す方に役立つ情報などを発信します。
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