【覚えなきゃマズイ】労働保険徴収法 事業の一括を整理

大量失点の可能性も

今回は労働保険徴収法から事業の一括について説明します。

事業の一括はいくつか種類があり、それぞれ要件や効果が異なります。

直接試験で問われることが多いことに加え、このあとの単元でも、これを理解していることを前提とした問題などが出されます。

なので、ここをきちんと理解しておかないと、大量失点につながる恐れもありますので、きちんと整理しておきましょう。

有期事業の一括を解説

有期事業とは

有期事業とは、事業の期間があらかじめ予定されている事業のことです。

したがって、期間の長短は関係ありません。

例えば、東京スカイツリーの建設は3年8か月という長期間の事業でしたが、期間があらかじめ予定されている有期事業に分類されます。

有期事業の一括とは

2以上の事業が次の要件を満たすとき、事業の一括が行われます。

(1)事業主が同一人であること。
(2)それぞれの事業が次のいずれかの事業であること
・建設の事業
・立木の伐採の事業
(3)それぞれの事業の規模が、概算保険料の額が160万円未満
かつ
・建設の事業:請負金額(税抜き)1億8,000万円未満
・立木の伐採の事業:素材の見込生産量1,000立方メートル未満
(4)それぞれの事業の種類が、建設の事業においては、労災保険率表上の事業の種類と同一であること。
(5)それぞれの事業に係る保険料納付の事務所が同一であること
かつ
それぞれの事業が、その一括事務所の所在地を管轄する都道府県労働局の管轄区域、またはそれと隣接する都道府県労働局の管轄区域内で行われるものであること。

この要件に該当する2以上の有期事業は法律上当然に一括が行われるので、申請手続き等は不要です。(事業一括申請書なるものは存在しません。)

一括の効果

有期事業の一括の扱いを受ける事業(一括有期事業)は、継続事業(期間の定めのない事業)として扱われ、各種手続きも継続事業を同じように行います。

一括の取り扱いとするか否かは事業開始当初の規模等で判断されるため、事業の途中で規模が変更となったとしても、一括の対象とする(もしくはしない)変更は行いません

請負事業の一括を解説

一括の要件

建設の事業が数次の請負に行われていて、労災保険にかかる保険関係が成立している場合、請負事業の一括が行われます。

一括の効果

請負事業の一括は要件を満たすものは法律上当然に行われます。一括が行われると、その事業は一つの事業とみなされ、元請負人のみがその事業の事業主とされます。

したがって、元請負人はその事業の労働者すべての保険関係(労災保険のみ)についての義務を負わなければなりません。

なお、雇用保険については一括が行われないので、各下請事業で保険関係の手続きを行います。

請負事業の分離を解説

分離の要件

請負事業に一括が行われる事業において、一定の要件を満たすものは、申請により厚生労働大臣の認可を受けて請負事業を分離(一括を行わない)することができます。

そのためには以下の要件をすべて満たさなくてはなりません。

  • 下請事業の概算保険料の額が160万円以上又は請負金額(税抜)が1億8000万円以上である。
  • 元請負人と下請負人が共同で、保険関係成立の日の翌日から10日以内に「下請負人を事業主とする認可申請書を提出する。

分離の効果

下請負事業の分離の認可を受けた場合、その下請負事業(下請工事)は独立した工事とみなされ、当該下請負事業は下請負人のみが事業主とみなされます

継続事業の一括

ここまでは、有期事業に関するテーマでしたが、ここからは継続事業についてです。

継続事業の一括はいわゆる「本店」、「支店」の労働保険に関する手続きを一括で行うものです。

保険関係は同じ会社であっても、事業所ごとに保険手続きを要します。支店(事業所)が多い会社は手続きが大変です。

一括の要件

そこで、次の要件を満たす2以上の事業は、事業主が厚生労働大臣に申請し、認可を受けることで、保険関係について1の事業として取り扱われます。

  • それぞれの事業主が同一であること
  • それぞれの事業が継続事業であること
  • それぞれの事業が労災保険または雇用保険にかかる保険関係が成立している二元適用事業もしくは労災保険及び雇用保険にかかる保険関係が成立している一元適用事業であること
  • それぞれの事業が、労災保険料率に掲げる事業の種類を同じくすること

有機事業や請負事業の一括と異なり、法律上当然に行われるものではないことに注意しましょう。

一括の効果

継続事業の一括が行われた場合、2以上の事業はそれぞれ次の通りとなります

労働者はすべて厚生労働大臣が指定する1の事業(指定事業)に使用される労働者とみなされ、指定事業以外の事業(被一括事業)との保険関係は消滅します。

条文で確認

労働保険徴収法 第七条(有期事業の一括)

二以上の事業が次の要件に該当する場合には、この法律の規定の適用については、その全部を一の事業とみなす。

 事業主が同一人であること。

 それぞれの事業が、事業の期間が予定される事業(以下「有期事業」という。)であること。

 それぞれの事業の規模が、厚生労働省令で定める規模以下であること。

 それぞれの事業が、他のいずれかの事業の全部又は一部と同時に行なわれること。

 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める要件に該当すること。

労働保険徴収法 第八条(請負事業の一括)

厚生労働省令で定める事業が数次の請負によつて行なわれる場合には、この法律の規定の適用については、その事業を一の事業とみなし、元請負人のみを当該事業の事業主とする。

 前項に規定する場合において、元請負人及び下請負人が、当該下請負人の請負に係る事業に関して同項の規定の適用を受けることにつき申請をし、厚生労働大臣の認可があつたときは、当該請負に係る事業については、当該下請負人を元請負人とみなして同項の規定を適用する。

労働保険徴収法 第九条(継続事業の一括)

事業主が同一人である二以上の事業(有期事業以外の事業に限る。)であつて、厚生労働省令で定める要件に該当するものに関し、当該事業主が当該二以上の事業について成立している保険関係の全部又は一部を一の保険関係とすることにつき申請をし、厚生労働大臣の認可があつたときは、この法律の規定の適用については、当該認可に係る二以上の事業に使用されるすべての労働者は、これらの事業のうち厚生労働大臣が指定するいずれか一の事業に使用される労働者とみなす。この場合においては、厚生労働大臣が指定する一の事業以外の事業に係る保険関係は、消滅する。

過去問にチャレンジ

平成30年度

2以上の有期事業が労働保険徴収法による有期事業の一括の対象になると、それらの事業が一括されて一の事業として労働保険徴収法が適用され、原則としてその全体が継続事業として取り扱われることになる。

答え「〇」

設問のとおり、一括有期事業は継続事業として取り扱われます。

平成28年度

有期事業の一括の対象は、それぞれの事業が、労災保険に係る保険関係が成立している事業のうち、建設の事業であり、又は土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業とされている。

答え「×」

有期事業の一括の対象となるのは、労災保険の保険関係が成立している建設の事業または立木の伐採の事業です。

立木の伐採事業を変えて出す問題形式は頻出ですので、気を付けましょう。

令和2年度

請負事業の一括は、労災保険に係る保険関係が成立している事業のうち、建設の事業又は立木の伐採の事業が数次の請負によって行われるものについて適用される。

答え「×」

一方で、請負事業の一括は建設事業のみであること(立木の伐採事業は対象外)をしっかりおさえましょう。このようなひっかけは多いですし、問題文をよく読まないとうっかり間違えそうですね。

継続事業の一括について都道府県労働局長の認可があったときは、都道府県労働局長が指定する一の事業(以下本問において「指定事業」という。)以外の事業に係る保険関係は、消滅する。

答え「〇」

設問のとおりです。ちなみに、上の説明では厚生労働大臣としていますが、実務的には都道府県労働局長がその職務を担うことになりますので、併せて覚えておきましょう。

都道府県労働局は、厚生労働省の地方支分局の一つで、各都道府県に設置されています。

社労士試験によく出てくる労働基準監督署や公共職業安定所などは、都道府県労働局の下部組織にあたります。

終わりに

いかがでしたでしょうか。

事業の一括に関する問題は、提示しやすいのか、よく出される分野です。

しかし、制度自体はさほど難しくないので、きちんと覚えましょう。

今後も、このブログでは、社労士試験合格を目指す方に役立つ情報などを発信します。

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